2011年1月26日水曜日

生きた言葉

こまめと家庭での取り組みを始めて1ヵ月あまりが経った。
実は、ここまであれこれと取り組もうとは思っていなかった。
自分では、いわゆる教育ママなんかじゃない、詰め込みなんてしないよ、と思っていた。
それがどうだ、毎日プリントやら何やらに囲まれている。

半年前には、学校から帰ってきたこまめは毎日のように公園で遊んでいた。
家ではお絵描きや工作、お人形との空想遊びなどが好きでよくやっていた。
日蘭関係なくお友達と約束して遊ぶこともしょっちゅうあり、その際は楽なオランダ語で
会話しているようだった。

母子間の会話は日本語だったし、絵本の読み聞かせも毎日ではないにしろやっていたし、
視聴覚マテリアル(DVD、CD、ネット上の動画など)にもそこそこ親しんでいた上、
地域の日蘭家庭の仲間と読み聞かせ&お遊びの会を月に1度やるようにもなった。
発話はややつたなく感じられるものの、こちらの言うことは理解しているようだし、ま、
こんなもんでしょ、と楽観していた。

ある時、軽い気持ちで時折やらせていたひらがなドリル(対象:2〜4歳)ではひらがなは
身に付かないことに気がついた。
画数の少ないものから順に、あるいは50音順に、見覚えのない文字を数回なぞったからって
それが何になる?幾何学模様をなぞる運筆練習と大差ないではないか。
そうこうするうちに学校ではabcの読み書きを習う時期に入り、次々と吸収しているよう
だったが、家ではいつまでたっても「の」と自分の名前のひらがな以外は読めない。

環境さえ整っていれば、読み書きが少々遅かろうが心配はない。
年齢や興味の対象、敏感期などもあるから、ある時期急に吸収度が上がったりアウトプットが
飛躍したり、ということは発話で体験済みだ。
ただ、このままあまり文字に親しみがわかないうちに疎遠になってしまったら…?という
漠然とした不安がよぎった。

こまめは5歳、日本にいれば幼稚園の年中さん。
日本で暮らす普通の幼稚園児は、身の回りでひらがなやカタカナを目にする機会は多い。
というか、それが当たり前。しかし外国で暮らしているとそうはいかない。
まずはひらがなを日常的に半強制的に親しませる環境を作っていかなくては、と目が覚めた。
特殊な暗号を、生きた言葉にしないと意味がないことに気づいたのだ。

文字の世界とお近づきになれなければ、会話も家庭での日常会話どまりにならざるをえない。
母とずっと日本語で話し続けてくれるならそれだけでも御の字だが、できればそこからもう一歩
踏み込んだ先のことも共有したいという思いがある。
もし、母が綴ったこまめの赤ちゃん時代の記録や、こまめの祖母が母に宛てて書いた手紙などを
大人になったこまめがひとりで読み返すことができたら、どんなにいいだろう…。
そうしてそれを、妹のごまめや、更にこまめの子どもと共有できたら…。
これも「親のエゴ」だろうか?

バイリンガルや早期教育にはさらさら興味がなかったが、ある時出会った「継承語」という
捉え方がとても気になった。
母と子の1対1の「教育」あるいは「伝達」を超えた、何かとても深くて長くて広いつながりを
想わせる定義だと感じられた。
綿々と受け継がれてきた言葉であり、奥深い文化を運び続けてきた乗り物としての日本語を、
自分の子らの世代にもつなげたい。
その願いは、親の嗜好やエゴを超えたものだと思う。

継承語としての日本語教育。
そのための環境はできる限り整えたい。家庭でどこまでできるか?
むろんゼイタクはできないが、工夫してみればいろいろとできるはずだ。

とはいえ、効果的とは思いつつも部屋中のモノにポストイットを貼付けたりする勇気がない。
労力のモンダイではなく、つまらない美意識が邪魔をするのだ。
ひらがな表も、2階のこども部屋に貼ってあるだけで、家にいる時間のほとんどを過ごす居間は
いたってニュートラルな空間だ。
出しっ放しにしたくないのだったら、出し入れを頻繁にするしかない。

そんなわけで、紙のワークシートや積み木などを使った取り組みを始めるに至った。
元々絵を描いたり字を書いたりするのは苦にならない方なので、親の私がまず楽しみながら、
なるべく簡単に、試し試し作ってはやらせてみて、の繰り返しでここまできた。
幸いこまめは苦にもせずついて来てくれている。

日本にいればここまで手出し口出ししていなかったと思う。
現在オランダ語の読み書き会話に関してまるっきりノータッチなように、なるようになれと
放っておいたに決まっている。
生きた言葉は、私の力添えなどなくても、いきいきと吸収されていくはずのものだから。

だから、今の私の使命は、日本語を生きた言葉として提供し続けること。
そうしていつの日か、子らが自ら欲して日本語を味わいたいと思ってくれたら本望である。

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